アジリティのすすめ

コンテンツ
アジリティをしてみたい
トレーニングを始める
ウィーブポールは家でも練習する
競技会に出る
階段でコンタクトを練習する方法
アジリティの練習は工夫次第で家でもできる
大会で100%実力を発揮する
アジリティを楽しもう

アジリティをしてみたい
ハリーをシェルターから引き取ってすぐ、重さわずか3・5キロのこの犬にたくさんのエネルギーが有り余っていることに気づきました。前の飼主の所で色々と問題を起こしていたことを聞いていたので、多少のわんぱくぶりは覚悟していましたが、所詮は小型犬と高をくくっていたのです。しかし、毎朝1時間でも2時間でも飽きずにボールを追い続けた後、家に帰ってきてもイスの足にかぶりついているハリーを見て、体だけでなく頭も使って疲れさせないとハリーのエネルギーを十分に発散させることは出来ないと思いました。そんなおり、雑誌でアジリティのことを知りました。「ハリーにはアジリティが向いている!」と直感しました。

すぐにマンハッタン中の訓練学校に電話をしてアジリティを始めたいと問い合わせましたが、東京以上に土地の値段が高いマンハッタンで本格的なアジリティの機材を所有する学校は1件もありませんでした。ニューヨークで本格的にアジリティを習いたいなら、マンハッタンの外まで車で行かなくてはならないというのです。

そこで近所で一緒にアジリティを始めたい人を捜すことから始めました。毎日毎日、色々な人にアジリティを一緒に始めませんかと声をかけ、3か月が経った頃やっと一緒にアジリティを始めてもよいという人を探し当てました。ハリー同様、エネルギーの有り余ったウェスティ「ゆき」を飼い始めたばかりのゆきママでした。ゆきママは車を持っていたので、お隣のニュージャージー州あるアジリティ施設までアジリティレッスンに連れていってくれると言います。そこで週1回、1時間のプライベートレッスンを半分ずつにして通うことに決めました。ゆきママに出会えて本当に幸運だと思いました。2004年の1月のことでした。

(2006/5/15)

トレーニングを始める
一緒にアジリティレッスンに行く人が見つかったところで、次の問題が待っていました。アメリカではアジリティは大変な人気で有名なアジリティクラブでは初級のレッスンをとるのにウェイティングリストで1年待ちというのです。でも、私たちは有名なクラブや著名な先生でなくても別に構いませんでした。犬たちが楽しんで持て余しているエネルギーを発散してくれればそれで良いと思っていたからです。そこで最近アジリティを教え始めたばかりというブリジット先生を見つけ出し、プライベートでハリーとゆきの2匹を教えてもらえるようお願いすることにしました。ブリジット先生は大きな大会で良い記録を残したことはありませんし有名でもありませんでしたが、身寄りのない犬たちを引き取っては訓練をして大会に出しているような人だったのでとても根気強い人でした。そして何よりもハリーとゆきが何を一番必要としているかをすぐに見抜いて、それぞれにあった方法で教えてくれました。

ハリーとゆきをアジリティ施設に連れていって放してやると、初めてであるにもかかわらず勝手にジャンプバーを飛んだりトンネルをくぐったりしはじめました。目の前に塀があれば飛び越え、穴があれば入るというのは、ハリーやゆきのように元気いっぱいの犬であれば殆ど本能的にできることなのかもしれません。コンタクトオブスタクルもシーソー以外は初日にできるようになりました。この時、きちんと服従訓練をした犬であれば習得時間に差はあれども、必ずひとつひとつのオブスタクルはできるようになると思いました。なんと言ってもアジリティで難しいのはオブスタクルをこなすことより犬を正確に操作することの方なのですから、オブスタクルができるようになったくらいで喜んでいてはいけません。

(2006/5/16)

ウィーブポールは家でも練習する
ジャンプやトンネルはすぐにできるようになっても、ウィーブポール(スラローム)だけは犬が本能的にマスターすることはありえないことは初心者の私にもすぐに分かりました。ましては必ず左肩から入るようにするには、たくさんの訓練が必要です。そこで60センチ位の長さのプラスチック製の細いパイプを6本買ってきて、近所の公園に立てて練習することにしました。その年の冬はとても寒く、早朝の公園に犬の散歩に来る人たちが少なかったので、これ幸いと雪の日以外は毎朝練習しました。

1か月後、早朝練習の甲斐あってハリーはウィーブポールが得意なだけでなく大好きになっていました。「ウィーブ」と言えば、ハンドラーがどこに立っていようと、どこを向いていようと、自分から一番近いウィーブポールの端に走っていって、左肩から入って、途中で抜け出すことなく6本最後までできるようになっていました。6本できるようになったら、もう6本買い足して12本で同じように毎朝練習を続けました。

(2006/5/17)

競技会に出る
3か月後、ハリーは12本のウィーブポールをどんな角度の入口からでもできるようになっていました。その時、ハリーは満1歳になっていました。そろそろ競技会に出始めたいと思いましたが、アメリカでは生後18か月にならないと競技会には出られません。そこでハリーが満18か月になると同時に大会にデビューさせることを目標に半年間ハンドリングをしっかり勉強しておくことにしました。週末にゆきママと一緒にアジリティ大会を見に行ったり、テレビで放送されたアジリティ大会の様子をゆきママのおうちにお邪魔して一緒に観戦したりしました。上手なハンドラーが走る様子を見るのはとても参考になります。

2004年9月、ハリーが生後18か月となったその日に初めてのアジリティ大会に出場しました。結果はスタータークラスの全ての競技で1位。こんなに簡単にできるのかと喜んでいたのもつかの間、翌週も大会に出ると今度はスピードが出過ぎてコンタクトを外してばかり。その後の大会でも、しっかりとハンドラーについては来るもののコンタクトを踏んでくれることは「全く」無くなり、訓練をしなおさなければならないことに気づきました。

(2006/5/18)

階段でコンタクトを練習する方法
コンタクトをきちんと練習したい。でも家に機材がないから毎日練習することはできない。アジリティのレッスンには毎週通えたとしても機材に触れるのは1回20分ほど。現実には毎週通うことさえ難しい。こんな状況でハリーにどうやってコンタクトを確実に踏むように教えればよいのだろうか悩みました。苦肉の策で階段を降りるときは必ず最後の段で止まることにしました。アパートでも公園でも歩道橋でも2段以上の階段があれば他の歩行者に迷惑がかからないよう人通りのない時に、階段の一番下に白いプラスチック容器のふた(ターゲット)を置いて、「ターゲット」というコマンドで鼻先でふたを触るように訓練しました。当初は前足でターゲットを触るように訓練していましたが、前足でターゲットを触る動作は簡単すぎて本当に停止しているかどうかハリーが自覚するのが難しかったので、鼻でターゲットを触るために「首を下げる」という動作を加えることで確実に止まるということをハリーの頭に叩き込むことができました。また、後ろ足は階段の最下段の上、前足は地面に置くよう訓練することで止まってほしい位置を正確に教えました。

最初はどんなに急いでいても、階段を下りるときは最後の段で必ず「ターゲット」と言って止まらせました。ポケットには常にトリートとターゲットを忍ばせておいて、成功すればすぐにトリートを与えましたし、失敗すれば階段の一番下にターゲットを置いて、成功するまで何度でもやり直しました。本当に時間がないなら、階段があれば抱っこして降りました。とにかくハリーには、階段を自分で降りるときは最下段に止まって待つということを100%徹底させたかったのです。

また、確実にターゲットに鼻先をつけるようになってきたら、ターゲットの大きさを小さくしていきました。最初は直径15センチだったのを2週間おきくらいに20%ずつ小さくしていき、最後は500円玉ほどにまで小さくしました。そして500円玉大のターゲットも確実に触るようになったら、徐々にターゲットを地面に置く頻度を少なくしていきました。

この話をすると多くの人が「階段とアジリティのコンタクトオブスタクルでは形が違いすぎるから、階段の最下段で止まれるようになったとしてもアジリティでコンタクトを踏めるようにはなるはずがない」と言います。私もすぐにその問題に気づきました。しかし毎日同じ階段で練習していたのではその場所でしかできるようにならないのは当然です。であれば、全く形の違う階段、自転車や車いす用のスロープ、長い階段の縁石など様々な場所で練習すれば良いのです。他の歩行者に迷惑がかからによう人通りのない早朝の時間を狙って、毎日違う場所の違う形の違う傾斜の階段で練習し、週1回でも月1回でもアジリティ練習場で本物のコンタクトオブスタクルを使っていつもと同じように後ろ足はコンタクトゾーンの上、前足は地面に置くように停止して鼻先をターゲットにつけるよう訓練すれば、犬はハンドラーが何を期待しているのかを一般化することで理解します。

そんなことを半年間続けているうちに、ハリーはコンタクトを外すことは全くなくなっていました。「ターゲット」のコマンドで犬を停止させるとスピードが落ちるから、そのような練習はしないほうが良いというアドバイスをしてくれる人が特に日本には大勢いました。実際の機材で毎日練習できるのであれば、私たちもランニングコンタクトをマスターしたいと思いました。しかし毎週アジリティ訓練に行くことさえもままならない私たちにとっては、実際の機材がなくても練習できるこの方法が一番良かったのです。

幸い、コンタクトで止まる方法に変更してもハリーのスピードが落ちたようには感じませんでした。ハリーはご褒美欲しさにターゲットめがけて突進していくので、かえってスピードは増したようにさえ思いました。練習のときはいつもコンタクトゾーンの上で数秒間停止させたままにしますが、大きな選手権大会ではコンタクトゾーンを踏むと同時に「オーケー」と言って解放しています。アジリティではスピードよりも正確さのほうが大事なのですから。まず正確にできるように訓練してから、次にスピードをあげていく訓練をすることもできます。

また、ターゲットを使って階段で止まる訓練はハンドラーの立っている位置を変えながらすることで、犬が自主的にコンタクトゾーンでスピードをコントロールしてコンタクトを踏むようにもできます。ハンドラーのコマンドのタイミングや立ち位置が毎回違っていようと、ハンドラーが犬の後ろをゆっくり走っていようと、次の障害物にすでに突進していようと、まったく違う方向を見て停止していようと、犬が自分で考えてコンタクトゾーンを踏むように訓練するのです。毎日の練習の中で少しずつ犬との距離をのばしていき、最終的にはハンドラーが階段の最上段に立ったままでも、犬が最下段まで自分で走っていきターゲットに鼻先をつけられるようになったら成功です。こうすることで、例えばUSDAA大会やIFCS世界大会にあるようなギャンブラーという遠隔操作を競う競技でドッグウォークがギャンブルにあったとしても、犬は3メートル以上離れたハンドラーを気にすることなくドッグウォークを突っ走って自主的にコンタクトを踏むことができます。階段訓練法には思わぬおまけもついているのです。

(2006/5/19)

アジリティの練習は工夫次第で家でもできる
ハリーはボーダーコリーやほかの優秀なアジリティドッグのようにそれぞれのオブスタクルの名前を覚えていません。ウィーブポールだけは家にあるので名前を知っていますが、他のオブスタクルの名前を覚えるにはやはり頻繁に実際の機材で練習しなければならないので難しいようです。そこで、私が手で指したものに真っすぐ進んで行くように訓練しました。家では一升瓶を居間に置いて2メートルほど離れた場所からそれを指して「アウト(行け)」と命令して、ハリーが自分から一升瓶に向かって行きぐるっと回ってまた戻って来るよう訓練したり、公園では木の切り株を手で指して「ジャンプ」と命令したり、大きなスーツケースや階段の踊り場を指して「テーブル」と命令してその上に伏せさせたりして、アジリティ施設に行かなくてもハンドリングの練習ができます。身近にあるものを工夫して使えば充分楽しいアジリティの練習ができることが分かりました。

(2006/5/20)

大会で100%実力を発揮する
世界大会に出場するようになった今でも時間のあるときは週1回、忙しいときは月1回、アジリティ施設に行って練習します。お天気の良い日は朝早く起きて、近所の公園でウィーブポールの練習をしています。毎日アジリティの練習ができたらどんなに楽しいだろうと思ったこともありましたが、最近はそうは思いません。ハリーはたまにしかアジリティができないおかげで、実際にアジリティをしているときには嬉しくて興奮して毎日練習している犬以上に集中できるようです。そして、ハンドラーはアジリティができるだけでとても幸せな気分になれるので、大会で失敗したとしても悲しくなりません。もちろん自分のばかなハンドリングを悔やむことはありますが、後悔はアジリティ技術を磨く上で誰もが通らなくてはならない過程です。失敗をしないで次の目標を掲げるのはとても難しいことなのです。

大会で失敗するときには必ず理由があります。犬にではなく、人間のハンドリングに必ず何らかの理由があるのです。それを解析して2度と同じ失敗を繰り返さないよう間違えた箇所を何度も復習し、完璧にできるようになるまで練習します。私の場合は大会での自分の走りを必ずビデオに撮り、後で全ての動きを記憶するまで何度も見ます。それが失敗した走りであればなおさら注意深く何度も見ます。私は頻繁にアジリティ大会に行くことができないので、ひとつひとつの大会がとても貴重です。そのため、ビデオを繰り返し見ることでこれまで走ったほぼ全てのコースを記憶しています。ただ大会に出場しているだけでは経験は積めません。自分の走りを記憶して初めて経験となるのです。

大会で完璧に走るには、訓練された犬と高いハンドリング技術の他にもうひとつ大事なことがあります。それは人間の集中力です。訓練された犬は常にハンドラーに集中しているのでさほど問題はありません。しかし、人間は新しい場所で見知らぬ人たちに囲まれると集中力が落ちることがあります。「いつもと同じアジリティをしているのに、飛行機で何時間もかけて外国にやって来て、理解できない言葉を話している人に囲まれているだけで緊張して失敗してしまうのよ。」と世界大会で仲良くなった日本人ハンドラーさんが私に打ち明けてくれました。確かに英語を理解しない日本人ハンドラーは世界大会でとても緊張することでしょう。ブリーフィングでは何といっているのかさっぱり分からなくて不安にもなるはずです。しかしアジリティのルールの基本は同じなのですから、いつも走っているように世界大会でも走ればよいだけです。それでも「それを頭では分かっていても難しいのよ。」と彼女は続けます。頭で理解していてもだめなら、体で覚えるまで何度も練習しなければならないのです。同じ課題(過去の失敗)を何度も復習することで、体で覚えてそれを頭で考えなくてもできるようにすれば不安はなくなり競技に集中することができます。

また、集中力を高めるには大会の場所が変わろうと毎回意図的に同じような状況を作り出す工夫も大切です。私の場合は、練習でも大会でも必ずハリーを抱いてリングに入り、スタートラインから1メートル手前の位置にハリーを座らせます。ハリーは自分の足でリングに入ることはありません。そしてハリーが開始の合図を待つ位置はスタートラインの80センチ手前でも1メートル20センチ手前でもなく必ず1メートル手前です。そしてハリーは必ず座って待ちます。立っていても伏せていてもいけません。この同じ手順を徹底して繰り返すことで普段と同じ実力を発揮する状況設定をするのです。同じ手順を繰り返すのは人間の集中力を高めるだけでなく、犬に「アジリティのスイッチ」を入れるのにも効果があります。ハリーはまだ決して服従訓練の完璧な犬ではありません。大会で自分の番の前の犬が走っているのを見ると狂ったように暴れます。毎回、宙を泳ぐように暴れるハリーを抱きかかえて私はリングに入るわけですが、不思議なことにスタートラインの1メートル手前にハリーを座らせたとたん、「アジリティのスイッチ」がハリーに入りハンドラーにだけ集中するようになるのです。

大会で実力を発揮する法則=過去の大会の経験+同じ動作を繰り返すことで高められる集中力

これは私が発見した理論ではありません。テレビでニューヨークヤンキーズの監督が選手たちの実力を100%引き出すためのコツを話しているのを聞き、それをアジリティに置き換えて自分で実践してきました。アジリティに費やす時間が少ない私にとって、集中して100%の実力を引き出すコツというのはとても魅力的に聞こえたのです。実際にやってみると「なるほど!」と思うことがよくありました。

(2006/9/15)

アジリティを楽もう
アジリティを遊びとして練習している人、近所の大会で実力を磨いている人、世界大会を目指してがんばっている人、様々な目標を持ってアジリティを楽しんでいる人がいることでしょう。私にとってはアジリティがハリーと家族の生活を楽しくする娯楽であり続け、ハリーが歳をとりおじいさん犬になってアジリティができなくなっても、楽しかった思い出を家族みんなで語れるようにしたいと思っています。アジリティは血統の良い犬が向いているだのお金と時間がかかりすぎるだのと思われがちですが、健康できちんと服従訓練を受けてさえいれば、どんな犬でもアジリティを楽しむことができます。定期的にアジリティ施設で練習ができなかったとしても、毎日の訓練の中で色々な工夫をすることでアジリティのスキルを磨くこともできます。

この「アジリティのすすめ」がアジリティを始めようか迷っている人やアジリティの訓練方法で悩んでいる人の参考になれば幸いです。

(2006/5/20)

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